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2010-06-09

『虐殺器官』

『虐殺器官』伊藤計劃 早川文庫

「私には、3回生まれ変わってもこんなにすごいものは書けない。」と帯には宮部みゆきの言葉がある。
そういう表現をする宮部みゆきもすごいなあ、と思うが、噂に聞いていたとおり、すごい本だった。

近未来。
911を皮切りに世界でテロが広がる。最悪だったのはお手製核爆弾でサラエボの町が消滅したこと。インドとパキスタンが核戦争をはじめた頃には人々の核への恐怖は既に麻痺していた。人々はテロ対策のため、より管理された社会を選び、ドミノピザをとるのにすら個人認証が必要になる。コンドームをどこでいくつ買ったか、そんなことまで履歴として残ってしまう時代。
クラヴィス・シェパードはアメリカ情報軍特殊検索群i分遣隊の大尉。テロとの戦いの中で暗殺を考慮に入れてもよい、と判断した合衆国による暗殺部隊。
世界中で紛争の源である、と判断された人々の首を狩っている。
管理された社会でテロは次第に減少していったが、貧困国での紛争と大量虐殺が急増していった。虐殺のあと、その元凶を断ちにシェパードたちが向かうとそのターゲットとしてほぼ必ずジョン・ポールの名前があった。この男は何者なのか。何が目的なのか。

911を特集した『現代思想』のタイトルは「これは戦争か?」だった。本書を読んでいてふと思い出し、「これは現実か?」と、問いたくなった。
後頭部に鮮やかな赤い花を咲かせて横たわる少女。腸が腹からはみ出している少年。いびつな形で倒れた焼け焦げた人間だったもの。そんな目を覆うような惨劇の中、カウンセリングと化学技術で感覚を鈍化させたシェパードはターゲットの殺害に向かう。向かってくるのは中古のノートパソコンより安い命の少年少女兵士。彼ら彼女らもまた麻薬で狂戦士と化しており、的確に殺さないと倒れない。最高の技術を付与されたシェパードは常人なら良心からひるんでしまうようなそんな状況下でも的確に任務をこなす。むごたらしいそんな場面の合間にあるのは映画の15分間の無料放映時間を繰り返し観ながらドミノピザとアンハイザーブッシュの「ヨーロッパではその名前では買えない」バドワイザーを味わう日々。あの日以来離れない母を殺した記憶。

どこかで見たような場面も多く、途中までは質の高いよくあるSFかと思っていたが、それだけではないものが本書にはある。
SFの枠を越えて評価されるのも当然だろう。
若くして亡くなった著者の才能に圧倒された。

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