『魍魎』
『魍魎』水木しげる 集英社
『地底の足音』という迷作が水木しげるにはある。
H.P.ラヴクラフトの『ダニッチの怪』という小説の翻案版で、氏の貸本時代の一作。旧支配者の「ヨグソトホート」をネタにしたものだが、「ヨーグルト」に改名されている。舞台は鳥取のどこか。ミスカトニック大学は鳥取大学になっている。
そんな作品があると聞いたのは高校生の頃に読んだラヴクラフトの解説本『ラヴクラフト・シンドローム』でのことだが、売っているのを見たことが無かった。
それが遂に、収められた本が出た。しかも文庫で。これほど感慨深いことはなかなか無い、気がしなくもない。以前ほどのラヴクラフトファンでもないというか、久しく氏の作品を読んでいない人間だが懐かしくなり購入。『地底の足音』自体はまあ、前述のとおりの作品で、まあ、そんな感じ。『おゝミステイク』は違うペンネームの作品だが、絵柄もずいぶんと違うし、なかなかに興味深い。『危機一髪屋』『大逆転』なんかは妖怪も出ない(ねずみ男っぽい人やよく水木作品に出てくる風采の上がらない日本人は出てくる)どちらかというと現実的な作品で読ませる。そして大作『地獄』も相当に面白い。
氏の昭和三十年代から五十年代の小品から中篇を集めた粒ぞろい。いい感じです。
« 『クリエイターのためのアートマネジメント』 | トップページ | 『ロング・グッドバイ』 »
この記事へのコメントは終了しました。
コメント